精神の疾患で働きながら障害年金の申請を検討されている方はたくさんいらっしゃると思います。
障害年金の申請に関して調べたことがある方であれば、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。
その中には「一度読んでみたけど、あまり意味がわからなかった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の就労に関する部分をわかりやすくご説明したいと思います。
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」とは
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」とは、精神疾患による障害の程度を客観的に評価し、障害年金の等級を判定するための基準をまとめたものです。
精神疾患による障害の程度を客観的に評価するための基準を提供することで、等級判定の公平性と透明性を確保することを目指しています。
厚生労働省:精神の障害に係る等級判定ガイドライン
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の主な内容
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、障害状態の程度の区分、認定基準、具体的な症状についての評価基準などが記載されています。
障害状態の程度の区分
精神疾患による障害を1級から3級までの3段階に区分し、それぞれの等級に該当するための具体的な基準を定めています。
各等級の認定基準
- 1級: 日常生活が著しい制限を受ける状態で、常時介護を必要とする。
- 2級: 日常生活が著しい制限を受ける状態で、常にまたは随時介護を必要とする。
- 3級: 労働に従事することが著しい制限を受けるか、または日常生活が制限を受ける状態。
具体的な症状の評価基準
意識障害、知的障害、人格障害、妄想性障害、うつ状態、躁状態、統合失調症などの具体的な症状について、それぞれの症状が日常生活や労働に与える影響の程度を評価するための基準を定めています。
障害状態の認定にあたっては、医学的な診断だけでなく、日常生活や労働への影響、治療状況、経過などを総合的に考慮する必要があることを規定しています。
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の「就労」に関する記述
精神の障害に係る等級判定ガイドラインには、就労に関すして以下のように記載されています。
労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。
厚生労働省:精神の障害に係る等級判定ガイドライン
この「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の記載部分の重要なポイントは、就労しているということだけで自動的に等級が下がったり、障害年金が不支給になるとは記載されていないことです。
就労状況は、あくまで等級判定の要素の一つであり、他の症状や日常生活状況なども総合的に考慮されます。
上記の判定の基準は以下の点にまとめられます。
- 労働能力の評価:精神疾患が労働能力に与える影響を評価するための基準が定められています。例えば、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを考慮して、日常生活能力を判断します。
- 就労状況と等級判定:労働に従事していること自体は、必ずしも日常生活能力が向上したことを意味するわけではありません。ガイドラインでは、就労状況を考慮しつつ、総合的に等級判定を行うことが明記されています。
審査で考慮される3つのポイント
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、精神障害、知的障害、発達障害の全ての審査の共通の考慮すべき点として以下の点を挙げています。
【考慮されるポイント1】援助や配慮
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には援助や配慮に関しては以下のように記載されています。
援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する。相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する。
厚生労働省:精神の障害に係る等級判定ガイドライン
具体例として以下の例が記載されています。
- 就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、 1級または2級の可能性を検討する。
- 就労移行支援についても同様とする。
- 障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する。
【考慮されるポイント2】就労の影響による日常生活能力の著しい低下
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には「就労の影響による日常生活能力の著しい低下」に関して以下のように記載されています。
就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面及び就労以外の場面の両方の状況を考慮する。
厚生労働省:精神の障害に係る等級判定ガイドライン
「就労の影響」とは、仕事をすることによって精神障害の症状が悪化したり、新たな症状が出現したりすることを指します。
この症状の悪化や新たな症状が原因で、日常生活に支障が生じることが「就労の影響」といえます。
精神障害の場合、仕事によるストレスや疲労が、仕事以外の場面での日常生活能力にも影響を及ぼすことがあります。
例えば、このように、仕事の影響が仕事以外の場面にも波及し、日常生活全般に支障をきたす場合があります。
- 仕事で強いストレスを感じると、帰宅後にリラックスできず、睡眠障害や食欲不振に陥る。
- 仕事で疲れてしまい、家事や育児をする気力がなくなる。
- 仕事の人間関係に悩んで、友人との付き合いも億劫になる。
両方の状況を考慮するというのは、仕事中の状況だけでなく、仕事以外の場面での日常生活能力の低下についても考慮するという意味です。
【考慮されるポイント3】就労の実態
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には「就労の実態」に関して以下のように記載されています。
一般企業(障害者雇用制度による就労を除く)での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する。
厚生労働省:精神の障害に係る等級判定ガイドライン
この部分の記載の重要なポイントは、月収が高いからといって、必ずしも労働能力が高いと判断されるわけではなく、逆に、月収が低いからといって、必ずしも労働能力が低いと判断されるわけでもないという点です。
重要なのは、仕事が本人の心身の状態にどのような影響を与えているかです。
具体的には以下のような実態を総合的にみて判断されます。
職務内容と責任
- 仕事内容が単純作業なのか、複雑な業務なのか。
- 判断力や責任を伴う業務なのか、指示されたことをこなすだけの業務なのか。
- 対人コミュニケーションの頻度や重要性。
- 仕事のペースや時間的制約の程度。
勤務状況と職場環境
- 勤務時間や日数、残業の有無。
- 遅刻や早退、欠勤の頻度。
- 職場の雰囲気や人間関係。
- 上司や同僚からのサポートの有無や程度。
- ストレスの程度や、精神的な負担の大きさ。
本人の状態と就労への影響
- 精神障害の症状や程度。
- 仕事による症状の悪化や新たな症状の出現。
- 仕事が日常生活に及ぼす影響(睡眠障害、食欲不振、疲労感など)。
- 通院や服薬状況、治療への意欲。
- 職場への適応状況や、仕事に対する意欲。
その他
- 職歴や資格、年齢、地域における就労状況など。
- 障害者雇用制度を利用せずに一般企業で働く理由。
まとめ
本記事では「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の就労に関する部分を説明させていただきました。
障害年金の審査はガイドライン通りに機械的に判定されるわけではありません。
ガイドラインはあくまで等級判定の際の標準的な考え方や判断基準を示すものであり、個々のケースに応じて柔軟に判断されます。
同じ診断名や症状であっても、個々の生活状況、病歴、治療状況、就労状況などは異なります。
審査では、ガイドラインを参考にしながらも、これらの個別事情を十分に考慮して総合的な判断が行われます。
したがって、障害年金の審査は、ガイドラインを一つの重要な判断材料としつつも、個々のケースに応じて総合的な判断が行われると言えます。
もし、ご自身の障害年金申請について不安がある場合は、当事務所にお気軽にご相談ください。
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