「働いているけど、一般就労ではなくA型事業所で働いているから、障害年金をもらえますよね?」
というご質問を頂くことがあります。
たしかに、就労継続支援A型事業所で働きながら障害年金を受給されている方はたくさんいらっしゃいます。
しかし、就労継続支援A型事業所で働きながら申請をして不支給の結果となってしまった方もいらっしゃいます。
この記事では、就労継続支援A型事業所で働きながら障害年金を申請する際のポイントや注意点、実際の受給事例などを詳しくご説明したいと思います。
障害年金とは
「障害年金」は、公的年金に加入している人が病気やけがなどによって「障害の状態」になったとき、生活を支えるものとして支給されます。
「障害の状態」とは、視覚障害や聴覚障害、肢体不自由などの障害だけでなく、長期療養が必要ながんや糖尿病、心疾患、呼吸器疾患などの内部疾患、または統合失調症などの精神の障害により、仕事や日常生活が著しく制限を受ける状態になったときなども含まれます。
就労継続支援A型事業所で働いていたら障害年金を受給できますか?
就労継続支援A型は、主として病気や障害などにより一般企業での就労が難しい方を対象に、雇用契約を結び、働く機会を提供する福祉サービスです。
つまり就労継続支援A型事業所は「一般企業での就労が難しい方が支援を受けながら働く場」なので、就労継続支援A型事業所で働いている方は「働いていても支援を受けながらなので、障害年金をもらえるんですよね?」と思われている方が多くいらっしゃいます。
しかし、就労継続支援A型事業所で働いているからといって、必ず障害年金を受給できるわけではありません。
障害年金には受給要件というものがあり、以下のケース1とケース2に該当する場合は「仕事や日常生活が著しく制限を受ける状態」であっても障害年金を受給することはできません。
またケース1とケース2の要件を満たしていても、ケース3の要件を満たさない場合は受給ができません。
それでは、就労継続支援A型事業所で働いていても障害年金を受給できないケースを見てみましょう。
【受給できないケース1】年金制度の加入要件を満たしていない
初診日の時点で国民年金や厚生年金などに加入していない場合は障害年金を受給することはできません。
ただし、「初診日が20歳前の方」、又は「日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間に初診日がある方」は、制度加入要件は問われません。
【受給できないケース2】保険料の納付要件を満たしていない
初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上ない場合は、障害の程度に関わらず、障害年金を受給することはできません。
ただし、初診日が20歳より前にある場合はこの保険料納付要件は不要です。
【受給できないケース3】障害の程度が軽い
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では「相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する。」と記載されています。
この具体例として「就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。」と記載されています。
これは「検討する」とは書かれていますが「必ず支給する」とは書かれていない点に注意をしてください。
また、就労に関して障害の程度が重いと判断されても、障害年金の受給資格は、病状、通院状況、生活環境などさまざまな視点から総合的に判断されます。
就労継続支援A型事業所で働いていても、総合的に判断して障害の程度が軽いと判断された場合は、障害年金を受給することはできません。
就労継続支援A型事業所で働きながら障害年金を申請するポイント
就労継続支援A型事業所であっても、就労している場合は「労働能力あり」と評価されて不支給となってしまうことがあります。
そこで就労に制限がある際は「就労時の状況などを詳しく伝える」ことが大切です。
例えば、周囲からの支援や免除されている業務がある場合は、診断書や病歴就労状況等申立書にしっかりと反映する必要があります。
また、就労状況以外にも病状、通院状況、生活環境などに関しても制限を受ける状態にある場合は、その状態を詳しく伝えることが重要になります。
就労継続支援A型事業所で働きながら障害年金を受給できたケース
それでは、当事務所で申請をサポートさせて頂いた就労継続支援A型事業所に通所されている依頼者様で受給が決まった例をご紹介します。
【事例1】過去に障害年金が支給停止された方の事例
病名 | 統合失調症(とうごうしっちょうしょう) |
---|---|
性別 | 男性 |
支給額 | 年額 約78万円 |
申請結果 | 障害基礎年金2級 |
中学生の頃に妄想や幻聴が出現し、医療機関を受診したところ「統合失調症」と診断され、治療が始まりました。
加療が始まってからも妄想から母親に暴力をふるったり、幻覚が酷く錯乱状態となり手に負えない状態となるなどで入退院を繰り返しました。
30年程前に障害年金を申請して障害基礎年金2級を受給されていました。
2回目の更新手続きを目前に転居に伴い転院されたことで主治医の先生が変わり、状態をうまく伝えることが出来ず、2回目の更新時に障害の状態が基準に該当しないとして年金が支給停止となりました。
しかし、その後も幻覚妄想などの症状は継続しており、意思疎通が困難であったり、日常生活への支障も大きい状況に変わりはありませんでした。
転居先でA型事業所へ通所を始めましたが、症状の為にまともに作業もできない状況でした。
ご本人様の状況を見かねた作業所の職員さんより、当事務所に障害年金のご相談をいただくこととなりました。
依頼者様の場合、年金が支給停止となっている状態でしたので、支給再開の手続きのため上記書類を整える必要がありました。
支給停止となった原因の一つとして、主治医の先生とのコミュニケーションがうまく出来ないこともありましたので、診断書作成にあたり実際の日常生活や就労状況などを参考資料としてまとめて先生に橋渡ししました。
また診断書の記載内容だけでは伝わらない現在までの経過や具体的な日常生活や就労状況などについて別途申立書を作成し申請しました。
申請の結果、「障害基礎年金2級」として診断書の現症日の翌月分からの年金の支給が再開されることとなりました。
【事例2】障害者雇用から就労継続支援A型に変更された方の事例
病名 | 広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい) |
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性別 | 男性 |
支給額 | 年額 約78万円 |
申請結果 | 障害基礎年金2級 |
依頼者様は、ご家庭の事情で、幼少期より児童養護施設で暮らしておられました。
施設内でプレイセラピーを受けていましたが、薬物療法が必要な状況になり、施設職員の付き添いの元、病院を受診したところ、ADHDと診断され、その後、しばらく通院を続けます。
高校卒業後は、児童施設を出て、グループホームに入居することになりました。
他者との協調性がなく、グループホームの入居者とトラブルを起こしてしまうことがありました。
障害者雇用で勤務していましたが、作業が遅く、周囲と合わず配置転換を何度も経験しました。
その後、A型事業所へ通所を開始。
そこでも多動傾向にあり、落ち着きがなく、同じことを何度も注意される状態でした。
周囲とのトラブルもあり、相談支援員の方から、弊社で障害年金申請の手続きをできないかと代理でご相談をいただきました。
当事務所で必要となる診断書を取得し、出生から現在までの経過については病歴就労状況等申立書に詳述し申請しました。
結果、「障害基礎年金2級」として申請した月の翌月分から年金が支給されることとなりました。
【事例3】ご自身でおこなった申請を取り下げた事例
病名 | 自閉スペクトラム症 |
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性別 | 女性 |
支給額 | 年額 約78万円 |
申請結果 | 障害基礎年金2級 |
幼少期より周囲の会話に入れず、友達を作るのが苦手で孤立することが多かったそうです。
自分では普通に会話しているつもりでも周囲から笑われることが多く、勉強は苦手で特に計算が不得意でした。
高校卒業後、親戚が経営する会社で働いたり、保険の営業、農作物の栽培、工場、レジなど職を転々していましたがいずれも人間関係がうまくいかず、短期間で離職していました。
対人関係がうまくいかないことについて、発達障害とは疑いもしなかったため、医療機関を受診することもなく、これまで過ごしていました。
30代後半になり職場での対人トラブルから抑うつ気分が強くなり、当時勤めていた職場を退職。
退職後も状態が改善しない為メンタルクリニックへ受診するようになり、気分変調症と診断を受け通院を続けていました。
さらに症状の改善がない為、転院することとなり、転院先の病院で大人の発達障害の疑いを指摘され、検査を受けたところ、自閉スペクトラム症と診断されました。
以降、一般就労ではなく、就労支援施設のA型事業所で働くようになりました。
事業所内でも責任者や他の利用者との人間関係をうまく築くことが出来ず、トラブルとなることもしばしばありました。
そんな中、障害年金の事を知り、一度ご自身で請求されてました。
しかし知人から「絶対に社労士に依頼すべき」と言われたため、結果が出る前に審査を取り下げ、当事務所にご相談を頂きました。
審査結果がまだ出ていない時点で請求を取り下げたため、まずは取り下げた書類を拝見させていただくとともに、現在の状態についてヒアリングを行いました。
既に取得していた診断書は期限切れであった為、新たに診断書を取得する必要があり、改めて受診歴を整理し、病歴就労状況等申立書を作成しなおして、再度請求する方針となりました。
今回の請求では就労をしていることがポイントになりました。
大人になってから発達障害と分かったケースでは、2級以上の認定は難しい傾向にあります。
Aさんは就労支援施設A型事業所にて軽作業に従事していましたが、周囲からの支援を受けながら単純作業であればなんとか出来ているという状況で、他の従業員とは意思疎通は困難でトラブルに発展しやすく、対人面での支障は大きいものでした。
日常生活及び就労の状況を改めて医師に伝え、新たに取得した診断書には現状を反映してもらうことが出来ました。
請求の結果、無事『障害基礎年金2級』として認定されました。
まとめ
この記事では、就労継続支援A型事業所で働きながら障害年金を申請する際のポイントや注意点、受給できた事例などを紹介しました。
就労継続支援A型事業所で働いていても障害年金を受給出来るケースと出来ないケースがあることをご理解いただけたのではないかと思います。
また、就労状況、病状、通院状況、生活環境などに関しても制限を受ける状態にある場合は、その状態を詳しく伝えることが重要だということもご理解いただけたのではないかと思います。
ご自身で申請をご検討されている方が手続きを進める上で、この記事が少しでも参考になりましたら幸いです。
「申請に不安がある」という方や「状況を上手く伝えられるか心配」という方は、お気軽に当事務所にご相談下さい。
私は障害年金が受給できるの?
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